親の「できなくなったこと」に気づいた日——私が将来の備えを始めた理由

距離をおく

親というのは、子どもがいくつになっても子どもだと思いたい生き物なんだなと、この歳になってつくづく思います。そして同時に、子どもの側もまた、親はいつまでもしっかりしているものだと、どこかで思い込んでいるものなのかもしれません。

今日は、親がだんだんと「今までできていたこと」ができなくなっていたと気づいた、ちょっと切ない話を書いてみたいと思います。

突然の「お金を送ってほしい」という電話

私の父はすでに亡くなっていて、母だけが残っています。母は私のきょうだいの近くで一人暮らしをしています。私自身はもう長いこと実家を離れていて、何年も帰っていない時期もありました。

そんなある日、母から連絡がありました。「少しお金を送ってくれないか」と。

正直、びっくりしました。この人がそんなことを言うんだ、と。

話を聞いてみると、母の親——つまり私にとっての祖父母の世代には、「ある程度の年齢になったら子どもが親を養うものだ」という考え方があったようです。母自身もどこかでそういう感覚を持っていたのかもしれません。でも当時はまだ父も存命でしたし、暮らしているのは生活費がそこまでかかるような場所でもないはず。どうしてお金が足りなくなるんだろう、と首をかしげました。

戸惑いながらも、まずは状況を把握しようと思いました。「お金を出すのはいいけれど、まず家計の状況を見せてほしい」とお願いしたのです。家計簿はつけていないというので、銀行の通帳を見せてもらいました。

見えてきた「できなくなっていたこと」

通帳のお金の出入りを確認して、少しずつ見えてきたものがありました。

和室の畳を全面張り替えていたこと。歩いて数分のところにスーパーがあるのに、食材の宅配サービスを契約して割高な買い物をしていたこと。リビングの照明を取り替えるのに、自分でできるようなことを地元の電気屋さんに頼んで、出張費込みで何万円もかけていたこと。食べたいものを自由に買って、傷んだら捨てる。乾物を使ってやりくりするという工夫もなかったようです。

一つひとつは大きな金額ではないかもしれません。でも、そういった積み重ねで、限られた収入の中でお金が足りなくなっていたのです。

年齢のせいなのか、もともとの性格なのか、それとも判断力が少しずつ落ちていたのか——正直、最初はわかりませんでした。でも「このままだとお金がなくなる」という計算ができなくなっていたこと、あるいはできていても「足りなくなったら子どもに頼ればいい」と思っていたこと。それ自体が、親の変化だったのだと思います。

結局、まずは一ヶ月だけ生活を見直してもらうことにしました。それでもどうにもならなかったらお金は出すから、と伝えて。すると一ヶ月後、「大丈夫だった」と言うのです。じゃあ三ヶ月、半年と続けてみてほしいと伝えました。自分の身の丈に合った暮らしを取り戻してもらうために。

思い返してみれば、父が体を動かせなくなっていたことも、母は長いこと私に知らせませんでした。ある日突然「入院することになった」と電話があって、実は何年も前から調子が悪かったと聞かされたのです。年を取ってもプライドだけは立派にあるんだなと、その時は少し複雑な気持ちになりました。

親の姿を見て、自分の将来を考える

そんな親の姿を見て、反面教師ではないけれど、自分はそうなりたくないと強く思いました。

私には子どもがいません。夫婦二人で暮らしています。将来、自分も今できていることが少しずつできなくなっていく日が来るでしょう。介護を受けなければならない時が来るかもしれません。その時に、周りの方にできるだけ迷惑をかけず、自分自身も精神的に追い詰められないように、今から備えておきたいと思うようになりました。

正直、以前は「自分には施設に入るようなお金なんて貯められない」と一度は諦めたこともあります。でも、親のことがあり、大きく生活環境を変えたことがきっかけで、少しずつ考え方が変わりました。人生の転機になったと思います。

まだ理想の状態には全然届いていません。でも、やれば結果が出るとわかっていることを、やらずに先の不安ばかり語るのはもうやめたい。小さなことでもいいから行動に移していこう。保険を見直すこと、引っ越しを決断すること——大きな決断には痛みも伴いますけれど、どうしようもなくなってからでは遅いのです。そう、母親のように。

未来の自分にあまり期待をかけすぎてはいけないと思いつつも、今の自分にできる備えはしておきたい。そう思えたことが、親が教えてくれた大切なことだったのかもしれません。

皆さんは、親の「できなくなったこと」に気づいた瞬間はありますか? そしてその経験から、ご自身の将来のために何か行動を始めたことはあるでしょうか。

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