数年前、コロナの影響で仕事を変えなければならない時期がありました。新しい職場は体力を使う大変なものでしたが、そこで思いがけない出会いが待っていました。
職場の機械室の管理をされているご年配の男性がいらっしゃったのです。私の親よりも年上の方でしたが、いつも明るく挨拶してくださって、自然と言葉を交わすようになりました。気がつけば、すっかり仲良くさせていただいていました。
哲学を語り、トナカイのコスプレをするおじいちゃん
この方がとにかくユニークな方だったのです。機械いじりが大好きで、話し出すと哲学の話をしてくださるのですが、正直なところ難しすぎてついていけないこともしばしば。それでも一生懸命に語ってくださる姿が微笑ましくて、いつも楽しく聞いていました。
かと思えば、クリスマスにはトナカイのコスプレをして周りを笑わせてくれるような、本当にファンキーなおじいちゃんでした。メカと哲学が大好きで、お茶目で、人を楽しませることに喜びを感じている方——そんな印象でした。
ある日、彼が美術大学のご出身で、絵を描かれていることを知りました。作品が展覧会に出展されると聞いて、ぜひ応援したいと思い足を運んだのです。残念ながら会場でお会いすることはできませんでしたが、後日、絵について感想をお伝えする機会がありました。彼の作品はとても独特で、見る人の心に静かに語りかけてくるような不思議な魅力がありました。私が素直に感想を伝えると、彼はとても嬉しそうにしてくださいました。
別れの日に渡された大きな箱
やがて元の職場に戻ることが決まり、その職場を離れることになりました。短い間でしたが、本当にお世話になった方でしたので、最後にきちんと感謝の気持ちを伝えたいと思いました。
別れの挨拶をすると、彼が「ちょっと渡したいものがあるんだ」とおっしゃいました。ついていった機械室で手渡されたのは、大きな箱。中を開けてみると、きちんと額に納められた一枚の絵が入っていました。彼が私のために描いてくださったものだったのです。
想像以上にしっかりとした作品で、思わず言葉を失いました。そしてその絵が、なぜか私の気持ちにぴったりと馴染んでいることに驚きました。学生時代に自分が描いたポスターなんかはあっさり捨ててしまった私ですが、この絵はずっと眺めていたいと心から思いました。
今でもその絵は部屋に飾っています。毎日目にしているのに、不思議と新鮮さが失われません。見るたびに少し違った表情を見せてくれるような気がして、飽きることがないのです。五十年以上生きてきて、こんなふうに誰かの作品に心を動かされ続ける経験は初めてかもしれません。
挨拶ひとつから生まれる、思いがけないご縁
振り返ってみると、私は彼に何か特別なことをしたわけではありません。ただ挨拶を交わし、話しかけ、彼の話に耳を傾け、展覧会に足を運んだだけです。でも、そうした小さなやり取りの積み重ねが、お互いの心に残る関係を築いていたのだと思います。
年齢を重ねると、新しい人間関係を築くことが億劫になることがあります。でも、相手がウェルカムな雰囲気を持っていて、こちらも少しだけ勇気を出して歩み寄れば、思いがけない素敵な出来事が起こることもあるのだと実感しました。
ご縁と素敵な絵——この出来事を通じて、他人に興味を持つこと、思いやりの気持ちで接することの大切さを改めて学びました。彼の絵のおかげで、日々の暮らしの中にささやかな豊かさが生まれています。素敵な絵を描いてくださったあの方に、改めて心から感謝しています。
皆さんにも、ふとした挨拶や何気ない会話から始まった、心に残るご縁はありますか?もしよかったら、そのときのことを少し思い出してみてください。きっと温かい気持ちが蘇ってくるのではないでしょうか。

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